人間の視界を遥かに超える範囲を写せる魚眼レンズ「TTArtisan 11mm f2.8 Fisheye」。ニコンのミラーレス一眼に取り付けて星景写真を撮ってみました。
広角単焦点ほどの万能さはありませんが、選択肢が少なく貴重な「フルサイズ向けの対角魚眼」。星空撮影で使ってみて噂に違わぬコストパフォーマンスの良さを感じました。
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TTArtisan 11mm f2.8 Fisheye
TTArtisan(ティーティーアーティザン)は、中国・深圳の光学メーカー「銘匠光学(めいしょうこうがく)」のレンズブランド。いわゆる中華レンズの一種になります。
中華レンズは玉石混交ですが、半年ほど使ってみてTTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeは限りなく「玉」ですね。端的に言って、実売2万円台でこれだけ使えれば文句ありません。
懐に優しい対角魚眼レンズ
対角線方向に180°の超広視野角を備えた魚眼レンズです。レンズ構成は7群11枚、ED(特殊低分散)ガラス1枚、高屈折低分散ガラス4枚を使用、周辺部まで高い解像力で表現でき、また開放f/2.8から高い描写力でハイクオリティな写真や動画が得られます。
商品スペックは国内代理店の焦点工房のWebサイトに掲載されていますので紹介は割愛します。ズームもオートフォーカスもできないコンパクトなレンズです。
ソニーEマウントほど交換レンズの種類が多くないニコンZマウント・キヤノンRFマウント・ライカLマウントにも対応しているのは嬉しいポイントです。
電子接点のないフルマニュアルレンズ
フルマニュアル操作のTTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeには電子接点がありません。ゆえにカメラ本体からレンズの絞りを制御できず、EXIFに絞り値が記録されません。
ただ、魚眼レンズは少し絞るだけで容易にパンフォーカスできるし、星空撮影ではほぼ開放しか使いません。電子接点がなくても大きな問題ではないと感じます。
星景写真撮影では「飛び道具」として使われることが多いかと思います。歪曲収差をあえて補正しないことで広い範囲を写せる対角魚眼、それではいくつかサンプルを。
地平線が大きく歪む対角魚眼
魚眼レンズは直線が大きく歪みます。表現の仕方として、地平線や海岸線を写真の中央に入れれば真っ直ぐ写り、中央からずれるほど大きく歪んで写るのが特徴です。
大きく歪む例として、上の写真はいすみ鉄道の第二五之町踏切で撮ったもの。真ん中の踏切はほぼ直線ですが、地平線(線路)は大きく歪んでいるかと思います。
星景写真の撮影でも十分使える
東京都心から2時間以内で行ける星空撮影スポットの1つ、房総半島最南端の野島崎。南西方向を向いて撮ってみると、白いベンチがとても小さく写りました。
上の写真、開放絞りで撮っています。真っ暗闇とは言い難い場所ですが、周辺の画質も悪くないし、冬の淡い天の川も含めそれなりに撮れているのではないかと。
明るい光源には極めて弱い
大洗磯前神社で神磯の鳥居と天の川を撮ってみると、圧倒的な画角の広さを感じました。ブログで見る程度ならコマ収差も非点収差もそこまで気になりません。
右脳派女子のRAW現像設定をそのまま適用した上の写真、左右にある赤いゴーストが気になるかと思います。明るい光源に弱いのはこのレンズの欠点の1つです。
出目金レンズのリア側にフィルター
TTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeはいわゆる出目金レンズ。フロント側にねじ込み式のフィルターを取り付けできないため、リア側の隙間でなんとかしてみました。
ソフトフィルターで明るい星を強調したいので、LEEのポリエステルフィルターNo.3をコンパスカッターで丸く切って、厚紙で挟んで補強したものをペタッと貼り付け。
Zマウント版のTTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeはリア側が円形の階段状になっていて、工作素人でもポリエステルフィルターを簡単に貼り付けることができました。
魚眼レンズにLEEソフトNo.3は有効
九十九里浜の最南端にほど近い雀島(夫婦岩)で、海岸線に沿って横たわる天の川をフィルター付きで撮ってみました。なんとも微妙な作例ばかりで申し訳ないです。
リア側にソフトフィルターを取り付けると、周辺の明るい星が伸びてしまうこともなく、夏の大三角やさそり座(アンタレスなど)の強調度合いもちょうど良い感じ。
写真右上の明るい星は春の大三角を構成するアークトゥルスとスピカ。TTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeはソフトフィルターを付けて初めて完成と呼べるかもしれませんね。
APS-Cカメラに魚眼レンズをセット
フルサイズ向けの対角魚眼レンズをAPS-Cセンサーサイズのカメラに取り付けると、どんな画角でどんな写真を撮れるのか、NIKON Z50で試してみました。
APS-Cは被写界深度がフルサイズより1段ほど深いので、さらに容易にパンフォーカスできるのがナイスですね。カメラとレンズのバランスもなかなか良いと思います。
対角魚眼レンズの中心だけ切り取る
横構図で冬のダイヤモンド(冬の六角形)を撮影すると、上にカペラとすばる、下にシリウスを入れて撮れました。これだけ広いと星景写真にも使いやすい画角です。
Z50にTTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeを取り付けると、優れた光学性能を発揮する中央部分だけ使われるので、周辺の収差が気にならなくなるメリットがあります。
補正すれば超広角としても使用可能
TTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeで撮った写真は、Lightroomでレンズプロファイルを適用すると歪曲収差が補正されて超広角レンズのように使うこともできます。
年越しキャンプのとき「ほったらかしキャンプ場」の最上段にあるカフェを撮ったもので実例を。周辺がだいぶ削られるけど、画質は問題ないレベルかと思います。
「メーカー」を「Nikon」、「モデル」を「Nikon AF DX Fisheye-Nikkor 10.5mm f/2.8G ED」にセットする。(中略)「ゆがみ」を95~98ぐらいにセットするとすっきりとした見え方になった。
TTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeのレンズプロファイルは存在しないので、焦点工房のコラムに記載されている通りに設定すると、ほぼ真っ直ぐに補正されました。
ミラーレス時代の貧乏神レンズ
- 実売価格2万円台で新品を購入可能
- 開放f2.8の固定撮影で星を撮れる
- 交換レンズの少ないZ・RF・Lマウントに対応
- 電子接点なしのフルマニュアル操作
- オーバーインフがなく無限遠出ているか不明(個体差かも)
- 絞りリングにクリック感なし(動画には有利な仕様)
世の中には「神レンズ」と呼ばれる高性能レンズがありますが、神レンズは10万円以上がほとんど。TTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeは懐に優しいミラーレス時代の貧乏神レンズかと。
フランジバックの短いミラーレスは、小型で高性能な広角寄りのレンズを作りやすいと言われており、TTArtisan 11mm f2.8 Fisheyeの性能から、確かに納得感があります。
重箱の隅をつつけば収差や片ボケなど欠点がなくはないけど、あくまでも2万円台で買えるレンズ。この明るさでコンパクトな対角魚眼があるなんて、ただただ驚きです。